働き方改革

看護師が「辞めない職場」はどうつくるか?働き方改革と離職防止の組織的アプローチ

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残業時間を削減し、勤務間インターバルを整えた。それでも看護師が辞めていく——そんな悩みを持つ管理者は少なくありません。

「働き方改革」は、勤務制度の見直しだけでは完結しません。看護師が就業継続を選ぶかどうかは、シフトや給与以上に、職場の「空気」と「関係性」に左右されることが、複数の研究で示されています。

この記事では、離職防止と働き方改革を組織文化の面から捉え直し、「辞めない職場」の条件を整理します。

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  • 残業削減は進んだが離職率が下がらず、根本原因が見えていない師長・管理職の方
  • 「職場の雰囲気が悪い」「スタッフが消耗している」と感じているが、何から手をつけるか迷っている方
  • 働き方改革をシフト管理や残業削減だけでなく、組織文化として根づかせたい看護部長・管理職の方
  • 育児中や体力的に制約のある看護師が「ここにいたい」と思える環境をつくりたい方

なぜ看護師は辞めるのか

日本看護協会「2024年病院看護実態調査」によると、2023年度の正規雇用看護職員の離職率は11.3%(前年度比0.5ポイント低下)、新卒採用者の離職率は8.8%でした。コロナ禍による上昇からやや落ち着いた水準ですが、依然として病院の約34%が前年度に比べ退職者が増えたと回答しています。

管理者が考える新卒看護師の主な退職理由(同調査)は以下の通りです。

  • 健康上の理由(精神的疾患):52.5%
  • 看護師としての適性への不安:47.4%
  • 看護実践能力への不安:41.6%
  • 上司・同僚との人間関係:29.8%

注目すべきは、「長時間労働」が直接の退職理由として上位に挙がっていないことです。退職の引き金は、心身の消耗と「職場の中で孤立している感覚」であることが多く、これは制度改革だけでは解決できません。

また、日本看護協会の調査によると、看護師の退職理由として「出産・育児のため」は22.1%と最多で、ライフイベントへの対応力が就業継続の分岐点になっています[1]。

「制度」より先に「空気」が離職を決める

なぜ「人間関係」や「組織の空気」が離職に直結するのでしょうか。これは感覚論ではなく、研究によって裏付けられています。

首都圏の中規模病院に勤務する看護師を対象にした研究(日本公衆衛生雑誌, 2022年)では、看護師のワーク・エンゲイジメント(仕事への熱意・没頭・活力が揃ったポジティブな心理状態)と組織公平性との間に統計的に有意な正の関連が認められました。中でも「手続き公平性」——意思決定のプロセスが透明で公正であると感じられること——との関連が最も強く確認されています[2]。

ワーク・エンゲイジメントが高い職場では、患者ケアの質が向上し、離職意思が低下することは別研究でも繰り返し確認されています(厚生労働科学研究費補助金研究班, 2020年)[3]。

つまり「辞めない職場」をつくるには、①労働条件の整備と②公正・透明な組織運営の両輪が必要です。

制度改革で押さえるべきポイント

組織文化の話をする前に、制度的な基盤も整理しておきます。愛知労働局「看護師等の勤務環境改善事例集」に収録された病院の取り組みから、実務的に有効だった施策をまとめます[4]。

多様なシフトの導入従来の3交代制に加えて2交代制や夜勤専従を取り入れることで、職員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が実現します。日本看護協会は夜勤専従者の月間総夜勤時間を144時間以内、勤務間インターバルを11時間以上とするよう推奨しており、この基準の遵守が心身の疲弊防止につながります。

育児支援の「組み合わせ」設計:保育料補助・夜勤免除・短時間正職員制度を単独ではなく組み合わせることで、育児中の継続就業率が向上します。鳥取県のW・U病院では「時間短縮型(1日6時間)」と「休日拡充型(週休3日制)」の2種の短時間正職員制度を、職種・年齢・役職を問わず全員に開放しており、柔軟性と公平性を両立しています。

残業管理の「見える化」:タイムカードと「時間外勤務報告書」の併用により、残業の発生要因を部署単位で可視化した病院では、サービス残業の実態把握と削減が進んでいます。重要なのは「残業は命令によるもの」という共通認識をチーム内で形成することです。各勤務帯の終了前に師長やリーダーが1人ずつ「あと何の業務が残っているか、何分かかるか」を確認し、明確な残業命令を出す方式に変えることで、個人の能力差によるサービス残業が解消した事例が報告されています。

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「辞めない職場」の条件 – 研究が示す3つの柱

8施設・1,796名の看護師を対象にした多変量解析研究では、職務満足に統計的に有意な影響を与える要因として「給与・労働条件」「職場環境」「職業的地位」「看護管理」「当院勤務年数」の5つが明らかになりました。この中で管理者が直接介入できる筆頭は「看護管理」と「職場環境(ソフト面)」です[5]。

研究知見をもとに、実践的な3つの柱を整理します。

①対人的公正:「あなたを一人の人間として扱っている」という実感

管理者がスタッフに親切心・思いやりを持って接し、職員としての権利を尊重する姿勢が、職務満足や働きやすさに最も強く影響することが複数の研究で示されています。

これは抽象的な話ではありません。具体的には「定期的な個別面談の実施」「意見を聞く場を設けること」「決定事項の理由を伝えること」が該当します。

決定のプロセスに参加していると感じられるかどうか(手続き公平性)は、決定の結果そのものより離職意思に大きく影響することが、前述の組織公平性研究でも確認されています。管理者が「なぜこの決定をしたか」を丁寧に説明するだけで、スタッフの納得度は大きく変わります。

②心理的安全性:「困ったときに声を上げられる環境」

新人看護師を対象にした文献研究(73件の分析)では、離職要因として「リアリティショック」と「職場内の人間関係」が共通していたことが明らかになっています。離職防止に最も有効だった対策は「人間関係の構築」と「勤務体制の管理」でした[6]。

「判断に迷う場面でリーダーに遠慮なく相談できる環境」「困ったことを言いやすい雰囲気」——これが新人だけでなく中堅看護師の就業継続意思にも影響します。厚生労働科学研究班の調査では、中堅看護師の就業継続に関連していた要因として「支えてくれる仲間の存在」「認め合える関係性」が挙げられています。

③現場の声を制度に反映する仕組み

愛知県の複数病院の事例では、経営陣と全職員が年3回「ミニ集会」で自由に意見交換を行う場を設けることで、スタッフが「先の見通しを持てるようになり、モチベーション向上につながった」と報告されています。

重要なのは「意見を聞くだけ」では不十分な点です。職員満足度調査を活用した別の病院では、自由記載の意見を全件検討し、病院側の対応を必ずフィードバックしたことで、職員の不満が徐々に減少しています。「聞いた→検討した→こう対応した(あるいはこの理由で今回は対応が難しい)」という双方向のサイクルが信頼を積み上げます。

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タスクシフトは「看護師の負担軽減」と「誇りの回復」に直結する

看護師がケア以外の業務——薬剤管理、診療報酬関連の書類、夜間の補助業務——に時間を奪われていることは、超過勤務の原因であると同時に「なぜ自分は看護師になったのか」というやりがいの喪失にもつながります。

前述の職務満足研究では「職業的地位」——看護師として誇りを持てる環境——が職務満足の独立した要因として有意に認められています。

薬剤師・臨床工学技士・看護補助者などへのタスクシフトは単なる効率化策ではなく、「看護師が看護に集中できる時間を守ること」として戦略的に位置づけることが重要です。看護補助者を日勤だけでなく夜勤帯にも配置した事例では、看護師の夜間業務負担の軽減と同時に、スタッフの定着率改善にもつながっています。

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まとめ:「働き方改革」の完成形は制度と文化の両輪

看護師の働き方改革は、残業時間の数値を下げることがゴールではありません。制度的な整備(シフト・育児支援・タスクシフト)を土台としながら、同時に「公正に扱われている」「声が届く」「仲間に支えられている」という組織文化を育てることが、真の意味での「辞めない職場」づくりにつながります。

管理者が今日からできる最初の一歩は、スタッフとの1対1の対話の機会をつくることかもしれません。「何に困っているか」ではなく「どうすれば働き続けやすくなるか」を聞くことが、改革の出発点です。

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