働き方改革

看護師の働き方改革はなぜ進まない?医師の改革との違いと、現場が今すぐできること

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2024年4月、医師の時間外労働の上限規制がついに施行されました。長年問題とされてきた「医師の過労」に法的なブレーキがかかったことで、医療現場に大きな変化が生じています。

しかしその一方で、「看護師の働き方改革はまったく進んでいない」という声が現場から絶えません。

なぜ看護師の改革は遅れているのか。そして今、現場は何ができるのか。データとともに整理します。

この記事がおすすめな方 
  • 働き方改革と言われても職場では何も変わっていないと感じている現場の看護師の方
  • 医師の時間外労働規制が自分たちの業務にどう影響するか知りたい方
  • 看護師の残業や夜勤負担を組織として改善したい師長・管理職の方
  • タスクシフト・タスクシェアの仕組みと課題を理解したい

数字が示す現場の実態

看護師向けコミュニティ「カンゴトーク」が2023年に実施したアンケート(672名対象)では、職場での働き方改革が「まったく進んでいない」と回答した看護師が54.9%と過半数を占めました。「少しずつ進んでいる」が29.2%、「かなり進んでいる」はわずか3.9%です。

残業の実態も厳しい状況が続いています。日本医療労働組合連合会の「2022年看護職員の労働実態調査」によると、就業時間後に残業をしている看護師は73.4%就業時間前も45.9%が超過勤務しています。日本看護協会の「2024年病院看護実態調査」では月平均残業時間は5.1時間とされていますが、急性期病院や救急医療機関ではさらに深刻なケースが報告されています[1][2]。

業務量の変化についても、同アンケートで「業務量が増えた」と回答した人が約3割にのぼり、うち6.8%が「医師の代わりで業務量が増えた」と回答しています。働き方改革によって医師の業務が看護師に流れてくるという、本末転倒な状況が一部で起きていることが見えてきます。

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医師の働き方改革とは何か

2024年4月に施行された医師の時間外労働規制では、勤務医の時間外労働に以下の上限が設けられました。

A水準(一般的な勤務医):年間960時間・月100時間未満
B・C水準(救急病院・研修医等の特例):年間1,860時間・月100時間未満

違反した場合は罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されます。この規制の背景には、厚生労働省の調査で勤務医の週平均労働時間が61〜66時間(労働基準法の定める40時間を大幅に超過)という実態があり、医師の6割以上が法定の時間外上限を超えていました。

この医師の改革を実現するための手段として注目されているのが、タスクシフト・タスクシェアです。医師が行ってきた業務の一部を看護師や薬剤師、臨床検査技師などに移管または共有することで、医師の労働時間を圧縮しようというアプローチです。

なぜ看護師の改革は後回しにされてきたのか

法的な上限規制が存在しない

看護師には、医師のような職種特有の時間外上限規制がありません。2019年4月施行の働き方改革関連法により、全労働者に対して時間外労働の上限(原則月45時間・年360時間)と年5日の有給休暇取得義務が適用されましたが、これは医療機関全体に対する一般規制であり、看護職に特化した強制力のある指針は整備されていません。

日本看護協会は「生涯にわたって安心して働き続けられる環境づくりを構築し推進する」という目標を掲げ、独自のガイドラインを整備していますが、各施設への拘束力を持つ法規制とは性格が異なります[3]。

タスクシフトの「上から下」構造

医師の業務が看護師に移ってくる一方で、看護師から看護補助者への業務移管(看護師側のタスクシフト)は体制整備が追いついていないケースが多いです。横浜中央病院の看護部長がリクルートワークス研究所の取材に答えているように、「医師の仕事の一部を看護師が担う以上、看護師の業務も見直すべき」という認識はあっても、現場での調整には時間がかかります[4]。

看護補助者・介護職員のなり手不足も深刻化しており、移管先の確保自体が困難な病院も少なくありません。

人員不足と慢性的な超過勤務の悪循環

改革を進めるには人員の余裕が必要ですが、看護師はすでに慢性的な人手不足の状態にあります。厚生労働省の推計では2025年時点で最大27万人の看護師不足が見込まれており、改革のための「余力」が生まれにくい構造的な問題があります。また、前残業・サービス残業が常態化し、タイムカードと実態が乖離しているケースも多く、「残業の可視化」すら進んでいない職場も存在します[6]。

働き方改革のための具体的アプローチ

タスクシフト・タスクシェアを正しく機能させる

タスクシフトを機能させるには「医師→看護師」と「看護師→補助者・他職種」の両方向が同時に動く必要があります。横浜中央病院では、医師から特定看護師(8名育成中)への業務移管を進めながら、看護師から看護助手・臨床検査技師・放射線技師への業務シフトを並行して実施。「どの職種も負担が増えるのでは」という抵抗感を解消するため、看護部長自らが部門間の交渉を行い、段階的に実現しています。

看護師から他職種に移管しやすい業務の代表例は、食事・清潔・排泄・移動などの生活援助、ベッドメーキング・環境整備、物品管理・在庫整理などです。これらを看護補助者に任せることで、看護師がアセスメントや専門的ケアに集中できる環境が生まれます。

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短時間正職員・夜勤免除制度など勤務形態の多様化

日本看護協会の2024年調査では、短時間正職員制度の導入が離職率の低下に寄与する事例が報告されています。フレックスタイム制・夜勤免除・時差出勤などの制度を整えることで、育児・介護中の看護師が働き続けられる環境となり、経験者の定着につながります。離職率の改善は人員不足の緩和に直結し、改革推進の「余力」を生む好循環をもたらします。

ICT・DXによる業務の見える化と効率化

厚生労働科学研究のタイムスタディでは、看護師がICT移譲を最も望む業務の上位に「申し送り」「報告・連絡・相談」が挙がっています。電子カルテのリアルタイム入力やテンプレート標準化は、記録業務を時間内に完結させ、「記録のために残業する」状況を解消します[6]。

また、福井大学医学部付属病院では、日勤と夜勤でユニフォームの色を変えることで勤務終了後に残業している職員を可視化。その結果、年間900時間の残業削減を実現しました。大規模なシステム投資なしに、工夫次第で大きな改善が可能なことを示す好事例です。

簡易的なシステムを導入することも良い例です。石川県の浅ノ川総合病院ではメディカルギークのscreeを導入。入院業務の時間が大幅に短縮されました。screeは、入院時問診をタブレットでスムーズに進められる入退院支援サポートサービスです。予定入院の場合、患者・家族の事前入力も可能。入力された内容はタブレット・パソコンを通して院内どこからでも確認できます。もちろん看護師に限らず多職種で利用OK。看護師経験のある専門スタッフがサポートします。 

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勤務時間の「見える化」から始める

改革の第一歩は正確な労働時間の把握です。始業前の情報収集、申し送り、研修参加など、「業務上必要な時間外行為」は労働時間として扱われるべきであることが日本看護協会のガイドラインでも明示されています。サービス残業が「当たり前」になっている職場では、まず実態を記録し、管理者と共有することが出発点となります[7]。

現場の看護師にできること

制度改革は一人の力では動かせませんが、現場でできることはあります。まず、自分の労働時間を正確に記録し、「見えない残業」を可視化すること。次に、改善案を個人意見ではなくチームの課題として上げていくこと。そして、タスクシフトや多様な勤務形態の制度化を、師長・看護管理職へ提案することが改革の芽になります。

働き方改革は「上から降ってくるもの」ではなく、現場からのデータと声によって動く部分も大きくあります。

まとめ

看護師の働き方改革が進まない背景には、法的な規制力の弱さ、タスクシフトの「上から下」への片道構造、慢性的な人員不足という三つの構造的課題があります。それでも、ICT活用・タスクシフトの双方向化・勤務形態の多様化を組み合わせることで、改善の余地は確実にあります。

医師と看護師は医療現場の両輪です。どちらかだけの改革では医療全体の質は守れません。看護師の労働環境改善は、患者へのケアの質を守ることと表裏一体の課題です。

メディカルギークは、業務改善ソリューションをご提供しています。 
特に、看護師の声から生まれた「scree(スクリー)」は、入院時の情報収集から記録までを今よりも簡単にできるサービスです。 

screeはただのITツールではありません。 

  • 病院の現場フローに即した、直感的なデザイン
  • 病院ごとの帳票に合わせ、専門家が効率化させた個別カスタマイズ仕様 
  • 小児や周産期など、専門領域にも対応可能
  • 看護師だけでなく他職種の記録業務も解決できる 

看護師の経験を持つ担当者が貴院の課題を丁寧にヒアリングし、screeの導入がどのように貢献できるか、具体的な活用方法をご提案させていただきます。

参考資料

  1. 日本医療労働組合連合会「2022年看護職員の労働実態調査」https://irouren.or.jp/research/
  2. 日本看護協会「2024年病院看護実態調査 報告書」https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/101.pdf
  3. 日本看護協会「看護職の働き方改革」https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/hatarakikata/index.html
  4. ジョブメドレー「看護師の働き方改革『まったく進んでいない』672人のアンケート回答から見えた問題点」https://job-medley.com/tips/detail/22905/
  5. リクルートワークス研究所「医師の仕事を看護師へ、看護師の仕事を技師・補助者へ。タスクシフトが喫緊の課題に――横浜中央病院」https://www.works-i.com/research/project/turningpoint/essential/detail001.html
  6. 厚生労働科学研究「効率的な看護業務の推進に向けた実態調査研究」坂本すが代表 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/27020
  7. 厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001140978.pdf
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